相棒season21放送当時(2022年10月~2023年3月)の感想記事です。
第17話「定点写真」感想
★テンポよく展開していき面白かったです。
今回は書きたいことが大きく二つ。
一つは10代の「恋心」、もう一つは作品の「評価」ということ。
★まずは幹太の恋心。
思いがけず知り合うことができた、プロの写真家であるあゆみに対する感情について。
幹太の感情は「恋」ではあると思うんだけど、自分のいる今までの狭い世界とは異なる、大人の世界に足を踏み入れたことにより増幅した感情かなと思います。
しかも自分の大好きな写真という世界でプロとして活躍している存在だからなおさら、今までにない昂った感情を抱き、それが「恋」に近いものになる。
そういう一段上の世界の存在を、若さゆえに憧れや羨望のまなざしで見ることは、きっと誰しも覚えがあるのではないでしょうか。
★だからこそ、そういう10代の強く純真な感情を結果的に利用する形で、事件解明のきっかけとなりうる写真を隠すように誘導してしまったのは、大人としてやってはいけなかったなと思います。
もちろんあゆみに利用してやろうという感情はないのですが、憧れの人に「自分は終わる」なんて言われたら、ああするしかなくなるよね。
さらにはあゆみを助けるために取引までしようとして危ない目に遭っているし…。
でもきっと、ことの顛末を知ったあゆみは真摯に反省してくれるんじゃないかなと思います。
★あとは幹太を心配する杏子の存在もよかった。
幹太が身近な杏子ではなく、一時的にあゆみに心惹かれるということは自然な感情の流れとしてあると思うんだけど、一周回った時に杏子の存在の大切さに気が付くはず。
その頃には杏子側がもう先へ行ってしまって手遅れになることも現実にはあるけど、今回のドラマ上の杏子はちゃんと待っててくれそう。
ラストの幹太が撮影した杏子の写真、被写体の撮影者に対する感情があふれていて、直接言及はなくても、二人のその後の関係が伝わってきてよかったです。
★さてもう一つ、作品の「評価」について。
今回、澤田が犯人であゆみがかばっているというのはわりと早めに予想がついたのですが、その動機が「協力関係」にあったことは意外で面白かったです。
てっきり「恩人である師匠の澤田だから」という理由だけかと思っていたので…。
それだと普通過ぎるから、そのあたりを作品に対する「評価」に苦しむ二人の立場と絡めて成立させたのは、思いつかないことでとてもよかったです。
★アイディア満載で才能もあるのにいまいち評価されない澤田、アイディアは沸かないけれど時の人として注目されているあゆみ。
澤田の場合、とてもいい写真を撮影するのに、本人が平たく言えば「地味」であるがゆえに評価に結びつかない。若くもなく、何か大きな賞をとっているわけでもない。
そしてあゆみは、明言はされていないけれど、その若さと美貌でもてはやされていて、写真そのものが過大に評価されてしまっている。
だんだんその要求についていけなくなり、澤田との協力関係に頼らざるを得なくなる。
★こういうのって現実世界でもよくあるんだろうなと思います。
本人の容姿だったり年齢だったり、作品そのものとは関係のないことが、作品そのものの「評価」に結びついてしまうということ。
反対のベクトルですが、澤田とあゆみは同じ形で苦しみを抱えていたと言える。
★それでもあゆみは幹太の「撮りたいものをただ撮る」という写真に出会って、かつての自分の写真への向き合い方を思い出せた。
大好きな写真への純粋な向き合い方を思い出したら、もうこんな「協力関係」なんて続けられないですよね。
「一からやり直したい」というのも当然のこと。
★しかし澤田の場合は、もう作品そのものだけでは正当に評価されることはない。
現に素晴らしいアイディアで作品を生み出してはいるのだから、写真そのものには何も問題がないはず。
となれば、何かセンセーショナルなオプションをつけなければいけない。
それが「賞」をとること、という方向へいってしまったわけです。
★自分にも覚えがあるなと思いました。
「賞」をとった人の作品だから素晴らしいはず。
有名なガイドブックに載っているから美味しいはず…などなど。
本体そのものを真正面から評価するのではなく、そこに付されている「オプション」による先入観で評価している。
それ以前にそういうオプションがなければ見向きもしない。
知らず知らずのうちに権威主義的な評価の仕方をしている。
「賞」を否定するわけではないし、権威付けも必要なことだとは思うけれど、そればかり見てしまうとたくさんのことを見落としてしまうよな…と改めて思いました。
★こてまりさん「自分の作品を高めることだけを考えている写真家にとって、賞なんて意味がないのかもしれない」。
この言葉は、写真家に限らずすべてに通じるものなのではないかと思います。
純粋に目の前のことをやっていた結果として「賞」が与えられるのであって、「賞」を得るために何かをやる、というのは逆なんですよね。
作品の制作ではないけど、右京さんの姿勢がまさにこれ。
真実を明らかにしたいというその信念で突き進んでいった先に、事件解決という「評価」がある。
まあ、特命係なんで実際に評価にはなってないのかもしれないけど、当然その実績は無視できないものとなっています。
右京さんは「評価してほしい」からとか、「警視総監賞がほしい」からとか、そんなものとは無縁の人。
きっとこの姿勢を貫くことは、真の意味で自分に自信がある人しかできないことなんでしょうね。
なかなか難しいけど、そうありたいと思う姿勢です。
もちろん右京さんにも色々…別の方面で…問題はあるものの(笑)。
★色々考えることができた楽しいストーリーでした。
season21も終わりが近づいてきましたね。
どんなラストを迎えるのか、見届けたいと思います。
以上で終わります。